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読書と映画と小説と、平熱的な日々のこと

2021年、読んで・見て良かった本、映画まとめ

2021年終了まで後数時間というところでこれを書き出しているが、はっきり言って全然時間がない。果たして年明けまでに間に合うのか。毎年記録しておくことが大事という意識で書いているので、今年はいつもよりも気持ち短めでいこうとおもう。

映画も本もまとめて記録するのはそれだけ量が少ないから。本・映画ともに今年は「これだ!』というのがあまり思いつかなかったので、全て順位なく記載。

 

個人的にも大きな出来事があったので本も映画も例年に比べると触れてきた量が減った。本なんて、数えてみたら去年の半分も読んでいない。しかも読んでいるものの傾向も2020年に比べてそう大きく変わったわけではないので、それもあって順位づけが出来なかったのではと思う。来年はもう少し考えながら一冊一冊を丁寧に手に取りたい。

 

 

映画編:

 

 

The vast of night

 

アマプラオリジナル。一昔前のアメリカ、片田舎のラジオ局を舞台に、不可解な電波を受信してしまったラジオDJとその友人が、その正体解明に奔走する。トワイライトゾーン未知との遭遇のような、往年の名作SF映画やドラマへ敬意の念を捧げつつ、長回しや、音声だけの場面など挑戦的な演出を挟んでくるのが面白い。主役二人の軽妙な掛け合いはどこかスタンドバイミーっぽさを感じるのに、全編通して爽やかさよりも怪しさがずっと先立つも楽しかった。懐かしいのに新しい、けど懐かしい、という不思議な感じの映画。

 

 

シン・エヴァンゲリオン劇場版

 

クソデカ感情を持ち寄れば持ち寄るほど気持ちよく浄化してくれる映画。そういう意味でファンにとってはお祓いみたいな作品で、人によっては細かい賛否ポイントや不満の声はあるかもしれないけれど、しかし長く続くシリーズにちゃんとけじめをつけてくれたことには感謝の念しかわかない。終わらせるというのはとても難しいし、商業的にも人気的にも引っ込みがつかなくなってしまった作品が終わらずにいつまでも続いてくのを見るよりは、やっぱりスパッと気持ちよく閉じてもらった方が、新しい気持ちで前が向けるというもんです。

 

 

トレジャープラネット

 

ピクサーがぐいぐい台頭してきて、やや2Dアニメーションのお株が奪われ出した時期の作品だと記憶している。違っているかもしれないが。要はそれくらいちょっとディズニーアニメーションが地味だった時代の作品。往年の名作冒険小説「宝島」を下敷きに、舞台を宇宙に移した作品だけど、絵面はワクワクするし、少しひねりを加えた家族の物語は胸を打つしで、非常に良質なアニメ映画だった。ジョン・シルバーがやっぱり魅力的なんだけど、主役を食わないところも絶妙。

洗練された2Dアニメに3DCGを随所で使っているのだけれど、このCGの「面白そうだから使ってみよう」みたいな使い方が凄くのびのびしていて、全編3Dではないからこその自由さが画面いっぱいに感じられた。

 

 

あの頃。

 

ハロプロオタクの映画です、みたいな売り出し方をされていた気がするのだけれど、ハロプロ要素はそこまで強くはなくて、どちらかといえば「好きに一途だったあの頃」を描く青春ムービー。あの頃、とタイトルにある通り、青春だった頃との距離の取り方が絶妙で、映画が先へ進めば進むほど、ある種の無常観すら感じさせてくる。でも暗くはならず、とはいって楽観的にもならず。不可逆の時間の流れや、時間が進むことによって感じる喪失感を、ポジティブな形で胸に残していく映画。あと、仲野太賀がとても良かった。

ところで、「サブカルチャーを支援するというサブカルチャー」を描いた映画でもある。具体的には、モー娘。ファンダムの中で、一部のファンの人間たちにさらにファンがつくという現象を描いてる。ファンと言ってもそんなに熱狂的なものではないのだけれど、ああ確かにこういう構造ってあるなーと。そこをしっかり描写されてるのも面白かった。

 

 

ワンダーウォール

 

元々はNHKの特別ドラマだったものが再構成されて劇場版へ。どう見ても京都大学学生寮だろっていう場所を舞台に、寮の取り壊しを図る大学側と、寮の存続を望む寮生たちの対立を描く。カオスや多様性が守られる場として描かれる寮、事務局と学生たちの間に仕切られた象徴的な壁の存在など、昨今の世界情勢や政治的な空気に十分刺さるモチーフを扱っているけど、その実、これは良さでもあるんだけど、すごくふわっとしている。説教くさくなるギリギリのラインで踏みとどまって、学生たちが今ここ、この空間、ひいては今この瞬間に対して向ける愛情の静かな強さにずっと焦点が当たるように配慮している。政治的なメッセージに安易にくくることなく、人間のドラマチックなところを美しく描こうとしているから、見終わった後、何も解決していないように見えても確かに心に何か重みのようなものが残る。

 

 

機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ

 

ガンダム見てなくても大丈夫だよ、といろんな人が言うから見たら、確かに大丈夫だった。モビルスーツ同士の戦いがメインなのかと思いきやどちらかといえば三角関係がメインの青春ドラマ。戦闘以上に、主役3人が台詞の節々から覗かせる駆け引きや、ふとした瞬間の表情の方に目がいってしまった。人間が妙に生々しいというか、挙動の読めなさに謎のリアリティがある。三部作だそうで次回作が楽しみだが、この恋愛バトルがモビルスーツ同士の戦いに重なっていくであろう今後のことを思うと、さらに楽しみ。

 

 

走れ、絶望に追いつかれない速さで

 

映画の良さって、今自分が生きている日常の風景を詩的に見せてくれることもその一つだと思う。見ている最中、画面に写ってる日常風景がギラギラして見える映画だった。とはいえ非日常な世界だという感じもせず、なんだか不思議な気分で見ているうちに終わってしまった。友人を失った主人公が、その死の「なぜ」を探ろうとする旅に出るのだけれど、なかなかうまく回答に近づけない。そのもどかしさややるせなさが、主人公の周りにずっと漂ってるのに、画面がずっと綺麗で引き込まれるように見てしまう。写真のような映画だった。

 

 

シンデレラ

 

ディズニー映画の実写リメイクはものによっては敬遠して見ていなかったけれど、これは見なかったことを損した作品。絵画のような美しい画面、現代に即した、けどうるさくなりすぎない絶妙なアレンジ、原作映画の名シーンを極力抑えつつ新しさもある物語と、すごく丁寧に作られた映画だった。有名作品を現代で実写化すると、今の時代にどうしてもそぐわない、けど作品の印象的に食い込んでしまった部分をどう消化するのかが注目されがちだけど、シンデレラはこの辺も絶妙。特に童話由来の作品だとその辺は野暮なツッコミを喰らいやすそうなものだが、紙一重でひらりと交わしていく感じが軽妙で、安心して見ることができた。原作の名曲をほとんど使わず、エンドロールで流すような演出も粋でした。

 

 

 

 

読書編:

 

伊予原新:月まで3キロ

 

科学をモチーフにした短編集。と聞くと硬めな印象を受けるが、科学は各話のほんのスパイス程度。ただそのスパイスのきき加減が絶妙に心地よい。何より、科学の話なのに、というか「だからこそ」なのかもしれないが、SFに傾くようなことはせず、純粋にロマンチックな話が多かったのが印象的だった。これは恋愛的な意味でのロマンチックではなく。人間と人間の関係を、より大きな世界や宇宙、自然といった広大な何かが包み込んでいることに気づかされるような、ワクワクするような感じを覚えさせてくれるような短編が多かった。

 

伊藤たかみ:ミカ!

 

続編の「ミカ×ミカ!」も良かったけど、シリーズであげるならこちらを。小学生の女の子ミカを巡る物語を、彼女の兄弟の視点から描いていく。視点と文章が面白くて、単純に綺麗。子供の時に感じた様々な感情、今初めて知るような感情、いろんな種類の感情が満ち満ちているのに、言葉がごちゃつかずにすっと入ってくるこの感じは、小説でしか味わえないと思う。成長への戸惑いを全身全霊で感じながら日々を過ごしていく二人の物語は、そこかしこにどこか不思議な要素が混ざったりするのだけれど、それでもファンタジーへ流れ込むのではなく、あくまで日常の物語として終わる感じも好きだった。

 

 

架神恭介、辰巳一世:完全教祖マニュアル

なんか昔流行った本だったような気がするがその時は読まず、なんの因果か今になって読む。教祖になって人生楽をするにはどうすればいいか、というふざけまくったことを説く本なのに、説いている内容は意外と真面目で面白い。古今東西の宗教をわかりやすく解説しつつ、何もない個人が成り上がって組織を率いていくにはどうすればいいかが語られていく。人を信じさせ、率いていくための手腕が様々に取り上げられているので、世の中にある大方のビジネスやサービスが全て胡散臭く見えてしまうのだが、逆に言えば、そういう胡散臭さを見抜くための知識にもなった。劇薬的な本で、悪用するかしないかは人それぞれ。

 

 

 

藤田祥平:手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ:

 

eスポーツという言葉が馴染み深くなったのはついこの間のこと。この本は、それよりもずっと前に、あるゲームで伝説的な存在になったプレイヤーであり、同時に小説家でもある著者の自伝的小説。ゲームや文学、芸術、インターネットに囲まれて育った作者の、必ずしも順風満帆ではなかった人生を振り返る内容だが、構成が独特というか、散文的でもあり、小説ぽさもあるし、詩的にもなるし、どこか虚構じみた手触りも出たりと、ページを繰るたびにくるくると相貌を変える。ある種の文体実験的な面白さすら感じる作品だけど、妙なとっつきづらさが(少なくとも自分には)あまりなかったのは、この作者が駆け抜けてきた人生の空気感みたいなものにどこかで共感できるからだろう。それは、この作者のようにすごく特殊な経験をしたという意味ではなく、人生のどこかで感じる虚しさややるせなさに、様々なコンテンツが救いになった経験がある人には、ここで描かれる屈託やそこからの解放が、どこか懐かしい思いがするからだ。

 

 

全卓樹:銀河の片隅で科学夜話

 

理論物理学者が語る万物、宇宙、生命の不思議。エッセイ集、という立て付けなんだと思うんだけど、これは思い切って詩集に分類したくなるくらい詩情に溢れた本になっている。賞ごとの幕間に挿入される絵とエピグラムも味があって良い。電子書籍では当時は販売していなかったので単行本で買ったのだけど、却ってそれが良い思い出になる本だった。

 

 

 

 

村上春樹:めくらやなぎと眠る女

 

去年は「象の消滅」を読み、今年はこちらを読んだ。初期から中期ぐらいまでの小説を編んだ短編集だが、やや「象」よりもマニアックな話が多いような気がしないでもない。とはいえ、個人的には初期〜中期ぐらいまでの短編にある、色んなことを包括しないような姿勢の、あの淡白だけどささやかな感じが好きなので、どちらの短編集も個人的にはお気に入りな話が多い。「バースディ・ガール」「嘔吐1979」「蟹」あたりの不穏な感じが心に残ってる。

 

 

 

レイ・ブラッドベリ10月はたそがれの国

「ライフ・イズ・ストレンジ」の中で少しだけ触れられていた短編集。普通にプレイしていると気づかないぐらい小さなモチーフなのだけど、ブラッドベリの中でもメジャーどころの作品ではないような気がしていたことと、タイトルが気になっていた。

初期短編ということで最初の方は少しとっつきづらい印象を受けたのだけど、中盤ぐらいから自分の好きなブラッドベリ作品が読めた、という印象。ブラッドベリ自体、多面的な作家だと思うので、その様々な顔を特に見れる短編集でもあると思うけど、ホラー、オカルト、SFというジャンルを横断しながら独特の詩情、しかもどこか家庭的な風情のある詩情を挟み込んでくれるところが好きなので、そういう意味でも大変満足をした。怖くて悲しいのにどこか切ない「湖」のような短編もあれば、純粋にホラーに極振りしたような作品もあり、振れ幅のデカさが面白い。

 

 

 

佐藤多佳子:いつの空にも星が出ていた:

 

好きな野球選手や球団はないのだけれど、それを少し悔やむくらいには良い本。ベイスターズファンの作者が、ベイスターズをテーマにした書いたこの本は、幾つかの小説を収録しつつも作品同士に殆ど繋がりはない。あるのはどの作品の登場人物も、ベイスターズ、野球が好きという熱い気持ちがある、その一点のみ。女子高生、小学生、社会人とそれぞれ異なる主人公の物語が一人称で紡がれるが、何がすごいって文体で、まるで正面で熱弁を聞いているようにぐいぐい話に引き込まれてしまう。野球マニアが知識をひけらかす話ではないのは、試合運びや勝ち負けの描写が意外とあっさりしているのを見ると明らかだ。それなのに、試合後の文章を読んでいると感情がどかっと雪崩を打ってやってきて飲み込まれるような気持ちになってしまう、この臨場感、ライブ感。生で試合を見たらこんな感じを受けるのかと胸を打たれた。

野球の話ではあるけれどこの本を読むのに野球に詳しい必要はない。ここにあるのは試合や観戦を通じて、人生へのやるせなさ、どうしようもなさに、一筋の風が吹き込むのを熱望している人の物語だから。その点では野球に関係なく、誰にも通じる物語だと思う。