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(ほぼ)何も知らずにTrySailのライブに行ったこと

 

ほとんど何も知らずにTrySailのライブに行く。

 

とか言いながら実際はツアー中に2回も行っている。1回目ほぼ何も知らなかったのは事実だが、ライブ始まって最初の3曲ぐらいで「これはもう一周したい」と感動し、終わってすぐ追加公演を予約。1ヶ月後、幕張は最終公演の地に立っていた。まんまと、という感じで。

 

 

元はといえばCultureZ以来の夏川椎菜のオタクだが、それでTrySailを知らないというのは、「松本人志は好きだけどダウンタウンはよく知らない」とか「アイアンマンは好きだけどアベンジャーズは見たことがない」みたいな話で不徹底である。そんな自覚を友人に話したら、お前それは物事の一側面しか見ていないに等しい、いい大人がそんなんじゃならん、ちゃんとユニットの方も見なさいと諭された。そんな折にライブが決まる。どこかの動画で夏川椎菜が「知らない人も楽しませる自信がある」と謳う。夏川椎菜がそう言うなら間違いない。

 

で、初TrySailはどうせなら初見でぶん殴られてみたかった。どうせ知らないなら、いっそ何の構えもなく、衝撃をそのまま浴びてみようと思った。

実際のところ、最新アルバムのSuperBloomを通して聴き、THE FIRST TAKEをみたぐらいの知識で臨んだ。我ながら不遜なもんだと思う。

殴られた結果がどうだったかは先述の通りです。

 

 

TrySailの三人がどれだけ良かったかみたいな話はいろんな人が言葉を尽くして語ってくれるだろう。「すみません、ちょっとお邪魔します」みたいな感じだった自分の解像度はたかが知れてる。

もちろん色々感想はある。居心地の良いライブだった。アットホームで穏やかで、TrySailはど直球王道のアイドルソングを歌いながらもどこかユーモアがある感じがする。ぺろっと舌を出す感じ。三人が三人ともバランスよく、いい意味で遊ぶように絡みながら歌ってるからかもしれない。それでいてかっこよく締めるところはバシン、と空気を鳴らして締める。でもそこに傾きすぎない。ゆとり、遊び、笑いみたいなフワフワした心地よさをまとわせてはしゃいでいる感じ。

 

雨宮天は剣みたいにかっこいい美人なのに客席に手を振る姿が10歳の少年のようで眩しいなあ、とか、麻倉ももの、遠くを見晴かすような目で歌う姿が凛としてかっこいいなあとか(麻倉ももは「凛」とする瞬間がものすごくかっこいい)。動く夏川椎菜MAKEOVERとベストナンしか知らなかったので、虚空を蹴り上げるロックな姿ばかりを壇上で見ていたから、他の2人を引き立てたり客席を煽ったり、いそがしく立ちまわりながらも決して存在感が崩れないところがすごい、器用だなあとか。

 

などなど。うんとある。

 

うんとあるが、実は一番よかったのは、オタクがよかった。ここでいうオタクは最大限の敬意を込めてあえてこう呼んでいる。

オタクにすごく感動した、とは新参以外に出てこなさそうな言葉だから書いとこうと思う。

 

幕張は3階のアリーナ席で全体が見渡せた。この席が良かった。会場の照明が落ちて、真っ黒い人波の中に星のように散らばる3色のサイリウムの光が恐ろしく綺麗だった。それぞれ細かく振られて、遠くからだと震えているように見えるのだが、壇上の三人が照明に照らされると、これを合図に一斉にブワッと吹き上がって宙を打つのが、また恐ろしく綺麗だった。熱風をうけて人間が光っている。三人も当然光っているのだが呼応して会場全体も光って、湧いて波になっている。

 

そういう光景はこれまで、いろんなライブであったからなにも特別なものじゃないと言われそうな気がするが、いやあれは特別だった。少なくともここにいる人たちにとってはとても特別だった。みんな長いこと長いこと、いろんなものを溜め込んで、その内圧を限界まで高めて、大事に抱え込んでこの場まで運び込んでいる。コロナは長かったし、声出しもできなかったし。

その内圧が放たれてすごい高波になって、これに揉まれながら直射日光を固めたような元気の塊をお互いに投げつけ合うようなライブだった。なるほどライブは皆で作るものですね。自分が受け取った凄い!という感情の半分ぐらいは、だから、オタクの皆さんの熱気に由来している。あるいは、皆さんが待ち続けた時間、焦がれ続けた時間、重なりあって熟した気持ちや気分の爆発に由来している。

 

そしてなんだか羨ましかった。このユニットは、もう長らく航海を続けていて、この瞬間は、長く続いた時間の一番、最先端にある。振り返って見える時間を航跡だとすれば、扇状の広がりの中に様々な波や泡が濃淡に染まって広がっている。時間の先端にこの瞬間がある。

ちょっと覗きにきたような自分は、この背後に広がる特殊な時間の厚みや様相はわからない。追っていけばその分、これからを見えるのかもしれないが、それでもちょっと羨ましさがある。

特に最終公演は、MCもあいまってそういう、時間と期間のことをたぶん多かれ少なかれ、誰もが考えるようなエモいライブだった。このエモさを正面から最大の解像度で見れるのは特権だと思う。暗闇の中を走ってこの先端の時間まで並走し続けたオタク諸氏は、間違いなくこの特権を誇っていいと思う。

 

思い出。Sunsetカンフーがすごく好きで、何が好きといってサビの「カンフゥ」のパートがめちゃくちゃ好きで、ライブでも楽しみにしていたらここが観客歌唱パートだった。予想外で笑ってしまった。ああ楽しいライブだったな。