「万事快調<オールグリーンズ>」を一気読みした。王道青春ものだ、多分。女子高生三人が園芸部を結成して、うだつの上がらない日常の息苦しさから逃れようとする。
「矢口さん、陸上部じゃなかった?」
「はい。でも、今は療養していまして。その間やることが見つからなくて悩んでいたとき、朴さんと岩隈さんが誘ってくれたんです。一緒に、花でも育てないか、って」
教頭は微笑む。
「はは。そうかぁ。矢口さんも、こうみえて女子だなぁ。お花が好きなんだね」
は? うるせぇ。マリファナだよ……と明かしてしまうとすべてが台無しになるので、秀逸な愛想笑い(自分でもそう思うくらい)を浮かべ、まぁ、はい、と控えめに頷く。
但し、育てるのは大麻。
舞台は茨城県は東海村で、文中で「文明が未開であり、火が発明されたのも去年のことだ」と揶揄されるくらい何もない(ひどい説明だ)。主人公たち三人はそれぞれ家庭や環境に問題を抱えていて、同時にサブカルチャーへの教養がやたら豊富で、本作は映画はゴダールからコーエン兄弟、小説はウィリアム・ギブスンから「たった一つの冴えたやり方」、漫画は大島弓子や岡崎京子、音楽は数多のヒップホップミュージック(だいたいわからなかった、エミネムぐらいしか)の膨大な固有名詞を参照しながら紡がれる。
つまり地方の裏寂しさを背景に、大量のサブカルチャー周りの情報をアクセサリーにして紡がれる犯罪小説なのだが、それでいて露悪的になりすぎず、暗くも重くもなりすぎず、鬱屈とした空気を吹き飛ばすようなある種の爽快感とユーモアに満ちていて、読み終えた後の読後感は確かに青春小説のそれだった。序盤からずっと話が転がり続けていて(状況的には「転がり落ちていく」に近いのだが)、個性的な登場人物同士の会話はずっと聴いていたくなるオフビート感があり。とにかく隙がない面白さだった。
面白いのは、サブカルチャーへの深い愛を惜しみなく注いでいる作品なのだけれど、そのカルチャーの数々が全然主人公たちを救わないことだ。道にある木や花のように、彼女たちにとっては当たり前にただそこにあるだけ。窮屈な現実から逃れるためのただ一つのヨスガ、みたいな描かれ方はしない。そういう描かれ方をしていたらこの作品はずっとつまらなくなっていたかもしれない。
豊かな、煌めくような文化的資本を傍に置いてなお、全く現実は好転しない。むしろその分現実の重さが、直接的には重苦しく語られるものではないにせよ、却って強く印象付けられる感じがする。大量のサブカルチャーの数々が、どれか一つを取り上げて強く語られる訳でもなく、等しく淡白に処理されていく感覚が新鮮だったし、現代的だとも思えた。まあ、現実ってそういうもんだよね、というドライな姿勢にも見える。音楽や小説や漫画は、地方で、高校生で、未来を全然感じられない彼女たちの現実をパッと救う訳でもなく、最も現実的に現実に対抗する手段がなんだったかといえば、大麻の栽培という必殺技だったわけである。それぐらい現実はハードだ。
こういうふうに書くとやっぱり重苦しく見えそうなのだが、でも、やっぱり悲壮感があんまりない。飄々と、疾走感をもって飛ぶように紡がれる。彼女たちにはどこかそこと違うところに行ってほしい、と願いながら読み進めてしまった。その力強い、屈託のない姿と未来へ向かう駆け足に熱い視線を向けてしまう。やっぱり青春小説のそれだと思う。
