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読書と映画と小説と、平熱的な日々のこと

光線銃

なんだか変な帰り道だった。

帰りの電車が途中で時間調整だがなんだかで止まって、ドアが開いたら外で誰かが光線銃を打ちまくっていた。そういう音がずーっとしていた。子供かなと思ったけど、今は夜だし、ここは駅だしなあと思ったが、電車の座席から首をひねって外を見るのも億劫なのでそのままでいると、開いていた自動ドアがしまった。それでも射撃音は鳴り止まない。なんだろうなと思った矢先にふっと音が消え、ビリビリ震えていた窓が静かになって、四角い光の連続体がその奥を、軌跡を残して流れていった。夜風を切って駆けて行く電車の音が、光線銃の正体だった。しかしまあ、本当にSFっぽい、まさに「ブラスター」らしい音だった。こういうこともあるんだなあと思うまに、遅れてこちらの電車が発進した。

ビュンビュンというブラスターの音は、弓の弦を一定のリズムで弾いているみたいだった。ブラスター音は、イヤホンから流れてくる曲の一週目が終わって、二週目に続くまでのわずかな間隙をぬって聞こえてきたので、そのせいもあって最初は曲の効果音か何かかと錯覚した。あるいはイヤホンが壊れたか。あるいは耳が壊れたか。あんまりにも耳馴染みのない音だったし、突拍子もなかったし、曲に混ぜ込むにはセンスがなさすぎた。電車が外をいく音だとわかれば、これまでの人生ではめちゃくちゃ聞いた音である。実際のブラスター音を聞いた回数よりもはるかに多く耳にしている。

聞こえ方が違ったのは、たぶん、雨が降りそうだったからだろう。帰り道に何人か傘をもって歩いているのを見かけた。ただ、雨が降っているわけでもなければ、雨が降った後もなく、ただ雨の匂いだけがやたらと漂っていたのが変だった。というか、これから降るのかもしれない。

寒いかなと思って外に出たら全然そんなことはない夜で、春っぽいなと思ったが、そういえばまだ2月である。

帰り道には月が出ていて、まん丸ではなく、ボールを見えない拳で強く上から押し付けたみたいな生々しいへこみ方をしていて、内側から熱を持ったみたいに濁ったような黄色をしていた。

雨が降る気配はやっぱりなかった。

なんでもない帰り道だったのだが、なんとなく奇妙だった。覚えておこうと思って記録している。